少子化に対するイメージを棚卸しする−内田樹編『人口減少社会の未来学』
気になってしょうがない
子どもが生まれてからというもの、未来について書かれた本が気になってしょうがない。
まず、昨年刊行されて話題になった、河合雅司『未来の年表』とその続編『未来の年表 2』を読んだ。
未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書)
- 作者: 河合雅司
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/06/14
- メディア: 新書
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未来の年表2 人口減少日本であなたに起きること (講談社現代新書)
- 作者: 河合雅司
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2018/05/16
- メディア: 新書
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人口予測に基づいて書かれているので、本書の指摘は、ある程度、現実のことになるだろう。
少子高齢化によって引き起こされること、すでに問題となっている空き家の増加、人手不足はもちろんのこと、手入れが行き届かないために虫害や災害が発生するなどのメンテナンスの問題も触れられている。
また、30年後には世界的な人口増を受けての食糧不足などが予想されている。
この2冊を読んで、インフラのメンテナンスとは向き合わなければならないし、食扶持の確保は、金銭面でも食糧面でもどうにかしなければならないと感じた。
ただ、技術の進歩や社会システムの変化の予測は難しいとはいえ、今の時代を前提として書かれているので、その点は物足りなくも思った。
もっと、いろんな人の見解を知りたくなったので、今度は内田樹編『人口減少社会の未来学』を手に取った。
今のシステムは続かない
本書は編者を含む11名が人口減少社会に対するそれぞれの見通しを書いている。
タイトルと著者は以下の通り。
・序論 文明史的スケールの問題を前にした未来予測 内田樹
・ホモ・サピエンス史から考える人口動態と種の生存戦略 池田清彦
・頭脳資本主義の到来―AI時代における少子化よりも深刻な問題 井上智洋
・日本の“人口減少”の実相と、その先の希望―シンプルな統計数字により、「空気」の支配を脱する 藻谷浩介
・人口減少がもたらすモラル大転換の時代 平川克美
・縮小社会は楽しくなんかない ブレイディみかこ
・武士よさらば―あったかくてぐちゃぐちゃと、街をイジル 隈 研吾
・若い女性に好まれない自治体は滅びる―「文化による社会包摂」のすすめ 平田オリザ
・都市と地方をかきまぜ、「関係人口」を創出する 高橋博之
・少子化をめぐる世論の背景にある「経営者目線」 小田嶋 隆
・「斜陽の日本」の賢い安全保障のビジョン 姜尚中
各人の分野や見通しのスケールはそれぞれだが、共通しているのは、今のままのシステムや考え方は通用しないということ。
特に面白かったのは、藻谷、平川、ブレイディの各氏。
また、自らの取り組みを交えて未来を考えた隈、平田、高橋の各氏の論も興味深い。
藻谷浩介は、少子化に対する思い込みを解きほぐす。
高齢化が深刻なのは地方よりも都会の方であり、地方の少子化も都会への流出が主原因ではないと統計を基に述べる。出生率の上昇には、生活環境の是正が必要だと訴え、地方での子育てに活路を見出している。
都会で仕事にありついている身からしてみれば、地方で子育てするということは、仕事をあきらめるということか?地縁の無い人間はどうする?と次々と心配になってくるが、そのあたりは平田オリザが丁寧にカバーしている。
平川克美は、損得勘定で人口減少を捉えることが問題であると指摘する。
現在の状況は市場化のモラルによってもたらされたものであり、そのモラルを変えることが、人口減少への歯止め、あるいは定常化した社会へのソフトランディングの鍵となると述べる。そして、そのヒントは無償贈与、有縁共同体、社会共通資本の再生にあると結ぶ。
ブレイディみかこは、下り坂をあえて上ると言う。
緊縮財政が欧州に及ぼしている負の影響を例示し、一国の財政を家計感覚で考えるのは間違っていると指摘する。若い世代が萎縮することのないように、未来のために積極的に投資を行うべきと主張する。
デフレと緊縮財政がナチスを生んだという話には、ひやりとするものがあった。
少子化に対する思い込みに気づかされる
書き手は何故か一人を除いて男性だが、少子化は女性のせいではないという指摘が散見されたのが嬉しい。
・女性が産まないのではなく、男性が結婚せず、子育てにも協力しないからこその少子化(藻谷)
・女性が子どもを産まなくなっているというのは、嘘である。(平川)
この先がどうなっていくか、誰もはっきりとはわからない。
人口減少社会の訪れは、数十年前から既に始まっていたことではあるけれど、議論はまだまだこれからなのだろう。
本書もいろんな意見が一冊になっていて、個人が具体的に何をすればいいということが書かれているわけではない。
ただ、少子化は悪いことで、女性のせいでそうなって、どうしようもないから支出は減らします、という世間のイメージに、そうだよね、仕方ないよねとなんとなく追随していたら、ぜひ読んでほしい。