まずは自分自身であれ−堀越英美『スゴ母列伝 いい母は天国に行ける ワルい母はどこへでも行ける』
大和書房のウェブサイトでの連載を毎回すごく楽しみにしていた堀越英美さんの『スゴ母列伝』が書籍化された。
偉業を成し遂げた女性たちの「母」の側面にスポットライトを当てた偉人伝。伝記に親しみが無くても大丈夫!現代の日本社会の子育てトピックと絡めてユーモアたっぷりに綴られているので、すらすら読める。
この本に登場する母たちは、逆立ちしても到底真似できないスゴい人たちばかりだけれど、突き抜けているからこそ勇気がもらえる。
紹介されているのは古今東西のスゴ母が全部で11人。その他にコラムで歴史上のヤバイ母やお茶の間にも有名なスゴ母が取り上げられている。
息子の太郎を柱に縛って仕事をしていたという強烈育児エピソードの主である岡本かの子に始まり、子ども向け伝記のストイックなイメージが強いマリー・キュリーの不器用ながら熱心な育児、クールな婦人運動家の山川菊栄を生み育てた青山千世の才気溢れるエピソードなど、痛快な伝記が立ち並ぶ。
基本的には破天荒だけれど、育児に取り入れられそうなエピソードも登場する。たとえばマリー・キュリーが娘たちの教育で重視したのは、体育と実習。青山千世の読書観、母親の威厳を守った鳩山春子、リリアン・ギルブレイスの家事の見える化など、まさに十人十色の育児があって面白い。
本書がweb連載中だった頃に読んで私が心の支えにしていたのは、リリアン・ギルブレイスのエピソード。ギルブレイス夫妻は生産管理工学のパイオニアで、子どもはなんと12人!というすごい夫婦。彼らが出産と子育てを「避けられない遅れ」と分類したというエピソードが、育児休業中だった私を慰めてくれた。合理化を唱える仕事の鬼のような人たちも、育児をとても大事な仕事と考えていたのだから、私のような凡人が自分のキャリアの多少の空白なんて気にすることないのかもしれないと思った。
私と同じ箇所に感動する人はそういないかもしれないけれど、この本には育児に疲れた心に効くパンチラインがどんどん登場するので、読んでいると元気になること請け合いだ。
自分の頭の中にいつの間にかインストールされている「世間標準のママ像」と自分とのズレを感じて苦しい思いをしているお母さんたち、かくいう私もその一人なのだけれど、この本を読んで、堂々と自分自身でいてほしい。
子育て中の人だけじゃなくて、誰かの娘や息子だという人はぜひ読んでほしい。自分の考えに忠実に生きる彼女らの生き様はとても格好よく、母の枠だけにとらわれていないのだから。
そして、できればこの本、日本だけじゃなくて世界中のお母さんに読んで欲しい。この『スゴ母列伝』の各エピソードにイラストをつけたギフトブックや、この本を原作にしたグラフィックノベルがあったらいいのになあと勝手に妄想している。英語圏では、”Good Night Stories for Rebel Girls 100 Tales of Extraordinary Women"(邦訳『世界を変えた100人の女の子の物語』)が大ヒットしたり、”Little People, Big Dreams”シリーズなどのイラストたっぷりでおしゃれな伝記本が刊行されているので、受け入れられやすい土壌があると思う。
アストリッド・リンドグレーンの章をグラフィックノベルにするなら、ぜひイングリッド・ヴァン・ニイマン(スウェーデン版ピッピの挿絵画家)の画風でよろしくお願いします!欲しい!